2025年3月、三重県議会の共産党所属・吉田紋華(あやか)県議(27)がX(旧Twitter)に投稿した内容が大きな注目を集めました。彼女が指摘したのは、津市役所のトイレに生理用品が設置されていないという事実。これに対してネット上では賛否両論が飛び交い、「生理用品を無料で置くべきか?」という議論が改めてクローズアップされています。
この記事では、吉田県議の投稿をきっかけに見直されつつある「公共の場における生理用品のあり方」について、国内外の事例とともに掘り下げていきます。
1. 津市役所ではなぜ生理用品が設置されていない?
産経新聞の報道によると、津市は「市役所のトイレは市民よりも職員の使用が多いため、職員への配慮で備品として設置していない」と説明しています。つまり、来庁者向けの配慮というよりも、職員の福利厚生の一環として考えているとの立場です。
一方、SNS上では、
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「生理は突発的に起こるのに備えてないのはおかしい」
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「トイレットペーパーがあって生理用品がないのは矛盾」 といった声が広がりました。
この問題提起は、単なる市役所の備品問題にとどまりません。実は「生理用品をどう扱うべきか」という社会的課題に直結するテーマでもあるのです。
2. そもそも「生理の貧困」ってなに?
「生理の貧困」とは、生理用品を経済的な理由で十分に入手できない状況を指します。日本ではあまり語られてきませんでしたが、コロナ禍を機にその存在が一気に注目を集めるようになりました。
内閣府の調査(2021年)によると、10代・20代の女性のうち、約1割が「生理用品を十分に購入できなかった経験がある」と回答。とりわけ学生や若年層、ひとり親家庭の女性たちが影響を受けています。
つまり、生理用品がただの「個人の責任」として扱われる限り、経済的・社会的な不平等が広がる可能性があるのです。
3. 海外では“無料”が当たり前に?スコットランドの先進事例
そんな中、世界ではすでに“無料提供”を基本とする動きが進んでいます。
特に注目されているのが、スコットランド。2020年11月、世界で初めて「生理用品の無料提供を義務化」する法律が可決されました。これにより、スコットランド国内の学校・大学・公共施設では、誰でも自由にナプキンやタンポンを受け取れるようになっています。
スコットランド政府は「生理は贅沢ではなく、健康の基本である」と明言し、持続的な支援体制を整備しています。
4. エストニア・オーストラリアなどでも広がる無料提供の波
スコットランドに続き、欧州やオセアニアの国々でも同様の取り組みが進んでいます。
▪ エストニア(タリン市)
2024年3月から、すべての学校に生理用品を無料で提供。授業を欠席する生徒を減らす目的があります。
▪ オーストラリア(ビクトリア州)
2024年末から、公共施設に無料の生理用品を提供する自動販売機を設置。1,500台を順次導入する予定です。
▪ イングランド
イングランドのラグビークラブでは、女性選手向けに生理用品を無料で配布。スポーツ界における月経への理解も広がりつつあります。
このように、「生理用品=誰にでも必要なもの」という認識が制度として根付き始めているのです。
5. 日本国内でも広がる無料提供の取り組み
実は日本でも、地道な取り組みが少しずつ広がっています。
▪ OiTr(オイテル)プロジェクト
民間企業のオイテル株式会社が展開する「OiTr」は、トイレ個室内に無料でナプキンを提供するディスペンサーを設置するサービス。全国250施設・3,000台以上が稼働中で、商業施設や大学などに広がっています。
▪ 自治体・大学の事例
京都精華大学や名古屋市、横浜市などでも、トイレに無料で生理用品を常備する動きが見られます。生徒・学生からの声をきっかけに導入される例も多く、ボトムアップの変化が起きつつあります。
とはいえ、全国レベルで見ればまだまだ少数派。公的機関の対応は自治体によって大きな差があるのが現状です。
6. 「誰もが使えるトイレに」当たり前の備品としての生理用品
トイレットペーパーや石けんが公共トイレにあって当然のように、生理用品も「突発的な生理への備え」として当たり前にあるべきではないでしょうか。
津市の事例から見えるのは、「生理」に対する認識や理解が行政レベルでもまだ不十分であるということ。吉田県議の発言は、そうした無意識の“排除”に一石を投じたのです。
生理用品の設置は、女性だけの話ではありません。トランスジェンダーやノンバイナリーの人たち、あるいは子どもや高齢者のケアをする家族にとっても、備えがあることで生活の質が大きく変わります。
■ まとめ|「なかったこと」にしないために、今できること
生理用品がトイレに備えられていないことは、見方を変えれば「見過ごされてきた問題」です。
しかし今、吉田県議の投稿をきっかけに、津市、三重県、ひいては全国の自治体に「当事者の声」が届けられ始めています。
世界がすでに進めている「当たり前の生理ケア」への取り組み。日本でも、もっと日常の中に生理を取り戻すことで、誰もが安心して暮らせる社会に近づけるのではないでしょうか。
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