日本人89万人減少で始まる“静かな崩壊” 少子化が社会にもたらす本当の危機とは?

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1. 日本人89万人減少。静かに進行する“人口崩壊”

2024年、日本の人口は前年比で約89万人減少しました(総務省「住民基本台帳人口移動報告」より)。これは鳥取県(約55万人)と福井県(約75万人)を足したような規模の人々が1年間で消えた計算になります。
日本の人口減少は「未来の問題」ではなく、すでに現実として目の前に広がっています。

さらに深刻なのは、その中でも日本人(日本国籍者)だけの人口減少が顕著であることです。外国籍を含めた人口は微減にとどまっている地域もありますが、純粋な日本人の減少幅は年々拡大し、今後数十年でより顕著になると予測されています。

このまま推移すれば、2060年には日本の総人口は8700万人を下回るとされており(国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口)、**高齢者の割合が約40%**に達する「超・超高齢社会」へと突入します。


2. 少子化はなぜここまで深刻化したのか?根本要因を深掘り

日本の少子化は単なる「若者の出産離れ」では説明できません。背後には、複雑に絡み合った社会構造や経済事情、価値観の変化があります。ここでは、主な6つの要因を紹介します。

(1)結婚しない若者の増加

厚生労働省の「人口動態統計」によれば、初婚年齢は年々上昇し、2023年時点で男性31.1歳、女性29.7歳となっています。一方で、生涯未婚率(50歳時点で結婚していない人の割合)は男性28.3%、女性17.8%(国立社会保障・人口問題研究所、2021年)と過去最高を更新。

理由としては、「経済的な不安」「仕事と家庭の両立への不安」「自由を手放したくない」という価値観の変化が挙げられます。

(2)子育てコストの上昇

子育てには莫大な費用がかかります。内閣府の調査によると、大学卒業までにかかる教育費の総額は約1,000万円以上にのぼるとも言われています(出典:内閣府「少子化社会対策白書」)。

住宅費や保育料、習い事費用などを含めると、「子どもを持つこと」に慎重になる家庭が多くなるのは自然な流れとも言えます。

(3)長時間労働・育児の両立困難

育児と仕事の両立が難しいという現実も依然として大きなハードルです。特に女性のキャリア継続が困難な現状は、出産を控える理由の一つとなっています。

育休制度や保育サービスの拡充が進んでいるとはいえ、「制度があっても職場で使いにくい」という声は依然根強く残っています(出典:厚生労働省「令和4年度 仕事と育児の両立等に関する実態調査」)。

(4)不安定な雇用環境

若者の雇用形態も少子化に大きく関係しています。非正規雇用の割合は依然として高く、特に20代後半〜30代前半では「将来の生活設計が立てられない」と感じる人が多数を占めています。

国税庁の調査によると、2022年の30歳未満の平均年収は約280万円。正社員でも400万円に満たない状況では、結婚・出産という大きなライフイベントは遠のいてしまいます。

(5)都市集中と地方の衰退

若者の大都市集中により、地方では出会いそのものが減少し、結婚・出産につながりにくい状況が生まれています。また、地方自治体の財政難により、子育て支援や教育環境の整備も追いつかず、「子育てしたくない地域」となってしまっている側面もあります。

(6)将来不安と社会への信頼低下

「どうせ年金ももらえない」「社会は変わらない」といった将来不安や無力感も少子化の背景にあります。自己防衛的にライフスタイルを縮小し、「子どもを持たない」選択をする若者も増えています。


3. 人口減少が社会全体に与える6つの重大影響

(1)空き家・廃屋の急増

総務省によれば、日本の空き家数は約900万戸。2030年には全住宅の1/3が空き家になる可能性が指摘されています。

(2)交通・医療など生活インフラの崩壊

住民が減ることで採算が取れず、バスや病院、スーパーなどの撤退が続出。特に高齢者の“買い物難民”や“受診難民”が深刻です。

(3)教育機関の統廃合

生徒数減少により、小中学校の統廃合が全国で進行。通学距離が伸び、教育の質に地域格差が出ています。

(4)自治体の財政悪化

若い納税者の減少で、自治体は税収減。インフラの維持すら困難になる市町村もあり、“消滅可能性都市”の再浮上も現実味を帯びています(出典:日本創成会議)。

(5)年金・医療・介護制度の破綻リスク

現役世代が減り、支える側と支えられる側のバランスが崩壊。年金支給年齢の引き上げや受給額の削減は現実的な議論となりつつあります。

(6)経済全体の縮小

人口減はそのまま消費の減少へ。企業の国内市場は縮小し、成長産業も限定的に。日本経済の長期停滞は不可避と言われています。


4. 私たちにできる「人口減少社会の歩き方」

■ 生活拠点を見直す

地方移住や2拠点生活など、暮らしを柔軟に設計することで、生活コストやストレスを下げる選択肢もあります。

■ 自分の老後は“自己責任”で備える

年金だけに頼らず、iDeCoやNISAなどを活用して、自分で資産形成する力を持つことがますます重要になります。

■ 地域社会に関わる

人口が減っても地域が持続するには、「顔の見えるつながり」が不可欠です。地域活動やボランティア、自治会など小さな関わりから始めてみるのも一つの方法です。


まとめ

日本人の人口が1年で89万人も減少したという事実は、もはや見過ごせない“社会の地殻変動”です。
その背景には、単なる出生率の低下だけでなく、私たちの生活や価値観、制度疲労が複雑に絡み合っています。

危機感を持つことは大切ですが、悲観するだけでは意味がありません。
この変化にどう向き合うか、どんな選択をするか——私たち一人ひとりの姿勢が問われています。


【主な引用元一覧】

  • 総務省「住民基本台帳人口移動報告」

  • 国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」

  • 厚生労働省「人口動態統計」「仕事と育児の両立に関する実態調査」

  • 内閣府「少子化社会対策白書」

  • 日本創成会議「消滅可能性都市レポート」

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